5年前と変わった点とは?

神奈川県の一般建設業許可更新申請で、判明した規制要件変更の最新情報をお届けします。

 更新申請手続きの概要

7月のある平日午前中、神奈川県県土整備局建設課出張所で窓口申請しました。

入室後直ぐに対応して貰え、10分足らずで申請書類チェックも完了しました。3箇所に訂正があり副本に修正を入れました。訂正事項は、①コードの誤記訂正、②数字のタイプミス、③集計数字記入漏れ、でした。

その後、窓口で証紙を購入して貼付し正副申請書を提出すると受理スタンプが押され副本が返却されました。その際、雇用保険の最新分納領収書を追加提出する旨の補正指示が一件発行されました。以上、当出張所に入室してから受理スタンプが押された副本を貰い建設課を出るまで約30分でした。

規制緩和事項〜5年前(2019年)と変わった点

前回の更新手続きと比べ変わった点は、以下の2点で規制緩和が有った事でした。

  • 【規制緩和①】オフィスの賃貸借契約書証明書類は不要となった。
  • 【規制緩和②】2021年法令改正で捺印不要となった

押印の廃止は、「押印を求める手続きの見直し等のための国土交通省関係省令の一部を改正する省令 (令和2(2020)年(国土交通省令第98号)」により、令和3(2021)年1月1日付けで建設業許認可申 請・届出等に係る申請者(及び代理人)の押印は全て不要となった経緯があります。その背景には、当時の首相菅義偉氏の押印廃止指示や行政のデジタル化の推進、コロナ禍による対面手続きの回避ニーズが増大した事実があります。

 但し、例外として以下の場合には押印が要求されているので注意が必要です。

  • 他機関からの証明書類でその機関の取扱いが変わらない場合。(預貯金残高証明書、登記されていないことの証明書、身分 証明書、保険加入証明等各種資格者証
  • 要するに、神奈川県(他の許認可主体も同様)は国交省の指示に倣って押印不要としていても、法務省や社会保険庁その他の省庁あるいは民間金融機関が押印を要求していればその要求に従って欲しいという趣旨です。
  •  経営業務の管理責任者等、専任技術者の実務経験の確認資料は従来通り
  •  工事の請負契約書については、 建設業法第 19 条が改正されない限り従来通り

ハンコは要るの要らないの?


 ここで実務上問題となるのは、各申請書類の押印の要否の判別が分かりにくいという点です。この点、顧客企業からも「実印ですか三文判ですか?」という問い合わせを良く頂きます。

建設業許可関連の文書は、下記国土交通省のガイドラインに書式を明示した指示があります。

出典:建設業法施行規則及び建設業許可事務ガイドライン000795877.pdf (mlit.go.jp)

但し、この様な明確なガイダンスが直ぐに見つからない場合は、概ね以下の目安を覚えて置いて頂くと良いでしょう。

  • 重大な財産処分行為に関しては、法的な効力を確保する為に実印の押印が求められる傾向が有ります。
  • 具体的には、①不動産取引、②自動車の登録、③金銭消費貸借契約、④遺産分割協議書、⑤会社設立や商業登記、⑥それらに関連して委任状を作成する場合、などが該当します。
  • その他の文書では、特別な規定が無い限り自筆署名を求める場合が増えており、三文判の出番は許認可申請関連ではほぼ無くなりつつあります。

因みに、文書偽造防止の観点からの文書の信憑性証明力は、デジタル署名>記名+実印の捺印+印証明書添付>記名+実印の捺印>自筆署名>記名+三文判捺印>記名という序列になって居ます。この序列では、三文判の押印は6段階の内下から2番目の信頼性しか担保できません。裏を返すと、自筆署名の方が文書の真正性に対する確からしさが増します。尚、ここで言う記名とは氏名のゴム印を押すか或いはワープロで印字して氏名を表記する事です。

押印廃止に関するその他の問題点

建設業法上で押印不要となっても、その他の特別法・政令・省令・各省庁の省令や通達そのたの法令で押印廃止に移行して居ない場合は引き続き押印が必要となります。そこで気になるのが、許認可申請文書で提出文書に加筆訂正事項があった場合の実務上の取り扱いです。

捨て印の風習

文書の加筆訂正については古来、申請文書や遺産分割協議書等の重要な文書には捨て印を押す風習がありました。多くの場合、所定の申請人や当事者が押印欄の他に、各ページまたは先頭ページの上部欄外に同じ印鑑を押したものを捨印と呼びます。古来と云ったのは、50年ほど前のパソコンやワープロが無い時代に、孔版印刷や和文タイプなどで活字印刷の公式文書を作成していた時点をイメージして頂くと良いと思います。

例えば、当事者が大勢いる遺産分割協議書などでは、全員が実印を押すのには相当の手間暇がかかります。その為、万一訂正事項が発生すると相当な時間のロスが生じます。例えば、相続人の押印者が5人居て一冊の冊子に契印を含めて5箇所実印を押す場合、それが7 冊あれば一人が35回5人で175カ所捺印する必要があります。そして、この5人の住居が分散していると順次郵送して捺印して行く事になります。その様な文書で、全ての捺印が完了した後に軽微なタイプミスが発覚した場合、50年前のオフィスツールが無い時代で文書を作り直すには膨大な手間がかかりました。もし、10か月の相続税納付期限が迫っているならば再作成と捺印を期限内に間に合わせるのは極めて困難です。そこで効果を発揮したのがこの捨て印で、予め訂正を予測した包括的訂正印の役目を果たしました。そして、この便利な風習はパソコンやプリンターが普及した今日でも、許認可の様式や金融機関の契約書・各種申請文書にで踏襲されてきました。但し、印鑑証明書添付が要求される様な印影が重要な文書については、かすれた印影を保管する為に余白に再度押印してもらう趣旨も含まれます。

捨印と訂正印の違い

では押印廃止に伴い、この事前の訂正印を押す風習が突然無くなった場合の文書の訂正はどうなるのでしょうか?通常は、文書作成者(すなわち申請書であれば申請者)の訂正印をその追記箇所や訂正箇所に押印すれば足ります。しかし、問題は多くの場合、申請文書に関しては士業の代理人や社内の代理人が窓口に出向くので申請者はその場に居ません。従って、押印廃止で余白に捨印も無い場合、代理人が勝手に修正して良いのかと云う疑問が浮かぶと思います。

ここで重要なのが、上記の「押印」が必要な文書と不要な文書の判別です。遺産分割協議書等、重大な法律行為や財産処分行為に関しては従来同様捨印が無いと勝手に訂正は出来ません。一方、押印廃止となった申請書や各種書式では、タイプミス等の軽微な修正を代理人が実施する場合、一般的には訂正印は不要となると考えるのが合理的ですが訂正箇所に内容にもよります。因みに、印鑑の無い欧米の社会ではこの様な場合で重要な箇所を訂正する際は、誤った記述に二重線を引きその上に訂正後の文字を追記しその付近に訂正した日付とイニシャルを書きます。

また、捨印自体「風習」と述べましが、法的効果は訂正印よりも弱いと考えられます。その理由は、訂正印が誤謬の訂正箇所をピンポイントで認識し作成権限者が修正する積極的な意思の表れであるのに対して、捨印は文書の初期捺印時点で将来起こるかも知れない不確定で軽微な修正を消極的に委任する意思の表示に過ぎないからです。

デジタル化が進むと

建設業界では、CCUSやJCIP等で情報管理や許認可申請のデジタル化が推進されています。申請や届け出文書がデジタル化されて行くとこの押印問題はどう変遷して行くのでしょうか?

まず、デジタル化社会では文書の偽造リスクが極端に増大します。その意味で、仮に印鑑証明書の画像をアップロードし実印を押印した申請文書の画像を電子申請で添付してもそれが偽造で無い証拠が何も無い為あまり信頼できません。その為、デジタル署名と云う電子的な証明(暗号アルゴリズムと云う通信ネットワーク上で電子的に原本性を証明する仕組み)が利用されます。更に、厳重な管理が必要とされる業務システムでは監査証跡(オーディット・トレール)と言われる文書や情報の訂正管理機能が装備されています。この仕組みは、2000年頃から米国から世界に普及し我が国でも20年以上前から各企業で運用されています。

JCIPでは、GビズIDという本人確認の仕組みや電子署名と呼ばれる上記のデジタル署名が必要とさていますが、システム上の監査証跡はユーザー画面上では実装されていません。

現状では、申請者と受任を受けた代理人のなりすまし防止はデジタル署名で確保しています。また、その正規アクセス権を持つ操作者が行う限りは、納税証明書や法人登記の全部事項証明書そのたの公的機関が発行する証明書類は、画像アップロードが認められており原本を郵送する必要は無くなっています。この様にして、組織の代表者の実印はデジタル署名に置き換えられつつあります。

出典:建設業許可・経営事項審査電子申請システム(JCIP)操作マニュアル2.1版 (PDF形式 19MB)

建設業許可申請や届け出は、1許可主体あたり年間で数千件に及びます。これらの手続きを受理し、限られた職員で短時間に処理するにはデジタル化が避けて通れなくなりました。そうなってくると、許認可文書審査の焦点は自ずから定型化と曖昧さの排除が進んで行きます。

例えば、毎年提出する決算変更届では、保有する全ての業種ごとに1葉の工事経歴書が提出されているでしょうか?以前は、まとめて1枚提出すれば済んだからと言って、今後もそれで済むとは限りません。また、工事施工金額の報告に関しても、デジタル化されて行くと縦と横の集計が整合しないと受け付けられなくなります。

まとめ

建設業許可を2019年に取得していた場合、今年更新申請をすると2つの規制緩和があります。そのうち、申請文書各書式への押印廃止は利便性が上がる反面混乱も招きます。多くの場合、三文判は社長や役員の自筆署名の要求に置き換わっています。しかし、ご高齢が原因で、署名の際に手が震えるなどの不都合を感じる向きもあります。この場合は、記名+実印押印でも代用可能です。また、提出後の書類の誤記訂正は、一般的には訂正印の無いまま補正を加える事可能と考えらますが窓口の指導に従う必要があります。

以上、押印廃止の背景にはデジタル化という建設業界全体の生産性向上の大きな動きがありました。現在、補助金申請や各種届出にもGビズIDが必要とされています。特に、建設業界では電子化によりコピーや郵送の雑務に充てる時間は無くなって行く事が予想されます。許認可申請は、早めに電子申請方式に移行して置く事をご推奨します。

変更届や更新申請の電子申請について、更に詳しく知りたい場合は当オフィスにお気軽にご相談下さい。