助成金申請を行う際、締め切り直前の準備が大きなポイントになります。今日は『令和6年度新たな事業環境に即応した経営展開サポート助成事業』の申請書作成を行ったリアルな体験記をお届けします。予想外のトラブルや、最後に重要だった調整、そして成功に繋がる秘訣を徹底解説。この体験記が、次回3月の申請に向けた参考になれば幸いです。尚、この記事は個人事業主と小規模法人向けのご案内です。

新たな事業環境に即応サポート助成金申請準備開始~締切当日迄の流れ

今回は青色申告個人事業主の例をご紹介します。尚、本件は東京都限定の助成金ですので、関東各県の方は地元の助成金公募との比較・参考の資料としてご活用下さい。

申請の準備にかかった主要な作業と時間は11時間(個人事業主版)

先ず申請書作成に要した時間と、作業概要は下記の表に示す通りでした。申請書アップロードの手前までで、ゆっくり進めて11時間でした。しかし、途中で資料の探し物をする時間がかなり掛かりましたので、資料さえ事前に揃えておけばこの半分程度で済むと思います。
申請添付書類も、簡単に出来ていてプリントアウトや手書き署名は不要でした。最も気が利いていたのは、青色申告書や納税証明書等が最初の申請時点では添付不要で、書類審査を通過した人のみに提出依頼が来る点です。申請時の手間が省け負担が減る有難い配慮でした。

申請の準備にかかった主要な作業所要時間
書式のダウンロードと、募集要項の読み込み1h
申請書の「Ⅰ申請者概要」の記入0.5h
申請書の「Ⅱ事業計画」の作成下記参照
①1.事業計画2h
②2.助成事業終了後の事業計画1h
③3.市場動向(事業環境の変化に対する分析・戦略)、創意工夫、独自性1h
④4.今後の展望0.5h
⑤工程表:2.フロー・スケジュール1h
⑥【販売促進費】(※募集要項p.12参照)集計表2h
III 資金計画 0.5h
誓約書①誓約書②0.5h
全文書の推敲1h
合計11時間
出典:申請書作成にかかった時間と作業項目(2025年1月パークRMCオフィス調べ)
思案投げ首11時間
思案投げ首11時間

初期段階で重要だったステップの解説

先ず、当事務所の場合はコンサルタントですので、「サービス業」用申請書のMS-エクセルファイルを選択しダウンロードしました。以下、このエクセルファイルの書式を例にとりながら話を進めます。
実際の書式のファイルはこちらのキャビネット「申請書式」をご参照下さい。

実は、作業を始める前に予め手元に用意しておかないとないと困る書類がありました。それは、①開業届の控え、②青色申告決算書の控え2019年版から直近のもの及び③現在提供している商品やサービスのプライスリストでした。下記の記入欄で聞かれて居る数字は、決算報告書と整合している必要があります。ここで、aの「直前期が2019年以降のいずれかの決算期より下回った」を選択すると当然2019年以降のいずれかの青色申告決算書の提示が必要になります。よって、もし直前期に損失を計上している方は、申請要件のaよりもbを選ぶ方が簡単です。

段取りが大事
段取りが大事

出典:申請書様式‗事業計画過去の売り上高実績記入欄

次に、計画書作成のポイントとしては、現状分析による課題抽出と助成金を使った取り組み内容との「整合性」を整える必要があります。そしてその取り組みには、既存事業との「関連性」や「新規性」及び「効果」とその「根拠」及び「実施体制」が問われます。更には、今後3年間の「収益予想」と「達成対策」と障害となる「市場動向」分析と「その対策」を述べ、最後に助成金を受給して実施した取り組みの将来の波及効果を聴かれます。

整合性がポイント
整合性がポイント

また、詳細部分に関する点検作業の手順としては、エクセル書式の「Ⅱ事業計画の作成」を先に目を通すと良いと思います。最も頭を悩ませたシートは後の方にある経費計上のTabの集計表です。

当事務所で実施したい取り組みは、①顧客ニーズ調査、②Webサイト製作・改修費、③印刷物製作費、④PR動画制作費、⑤広告費、の5項目でした。

先ず、募集要項の8ページと12頁を参照し上記①は「経費区分:委託・外注費」で、また②~⑤は「経費区分:販売促進費【上限200万円】」で全て賄える事が解りました。このうち、30万円以上の経費になる可能性が高いのは、①のマーケット調査費と⑤の内のWeb公告です。従って、この2項目は見積が必要ですし、②も開発規模が多岐にわたりLP(Webのランディングページ)の他に固定ページを数画面作成したいとなると見積が必要かもしれません。

出典:申請書様式‗事業計画‗予想経費の具体的集計_【販促費】の例

つづいて、このファイルの計画3と云うTabを開けると下記の画像の様に3年先の損益をシミュレーションできる様になっています。それを実際に埋めると、初年度の投資立替金による赤字が損益を大きく圧迫する事がわかります。

また、この先行投資による損失は2年後の決算で情勢金の給付額が入金され3年後の決算で初めてリセットされる事が解ります。従って、その年度の利益の増加が本来の投資効果である事が解ります。尚、この金額が極端に大きいと、翌期に入金があった場合その期の税引前利益が増加する事も考慮する必要があります。

効用の評価
効用の評価

この様にして、この表を大まかに埋めるだけで投資効果がどの程度あるのかが具体的にイメージできます。そして、本当にやるべき価値のある取り組みかどうかを効率的に検討できます。

出典:申請書様式‗事業計画‗3年分の損益シミュレーション

次に、この表が埋まりましたら、前のTabの「計画」1~4に戻って埋めて行きます。

最後に、「工程」のTabの明細を埋めて行きます。工程表を書いているうちに、1年間で相当の作業項目が増える事がわかります。当然、一人でこなそうとすると現業に影響が出兼ねません。アルバイトの起用なども視野にいれる必要がある事が解って来ます。

リソース問題
リソース問題

出典:申請書様式‗事業計画‗‗フロースケジュール(1年間で何をいつすべきかが分かる工程表)

これらの一連の作業を、事業計画の先頭に戻り何度か繰り返しブラッシュアップして行きます。その間、解らない事が次々と出て来るかも知れませんがその都度公募要領を読んで理解します。それでも解らない時は、迷わず事務局に電話して聴きましょう。最後に、全ての分析・計画・目標・経費区分とその金額が纏まったら、資金計画表を記入します。そして、これが最終案として固まったならば、一番最初の表紙のタイトルと助成金申請金額を記入します。

出典:申請書様式‗資金計画表

これら一連の作業を行うと、実は12ヶ月余りの間自己負担となる助成事業の予算規模が果たして妥当かという疑問が湧いてきます。想定した費用対効果の妥当性や、本当に実行する時間がとれるのかという様々な点に気づきます。これが、1/3が自己負担と決めた制度の最大の効果です。

例えば、手持ち資金が苦しい場合は、取り組みの規模を縮小するか、或いは金融機関に融資の相談をしてみるかという選択肢が思い浮かびます。逆に、確実に収益が上がる見込みなので、もっと積極的に経費を積み上げて行き限枠800万(自己負担は400万円で合計は1,200万円)に近づけるという判断も出て来るかも知れません。この、800万まで自由に金額を設定できるのがこの助成金が他の補助金よりも使い安い特徴です。

もしその様な疑問が湧いたら、今使っているファイルを別の名前で保存しましょう。そして、先ほど感じた「縮小」や「拡大」或いは、ある経費項目の増減を書き込んでみます。

何れにしても、この募集要領と申請書式の構成はポイントを纏めやすく簡潔明瞭に出来ています。その為、特に初めて取り組む方や久しぶりに「事業計画書」を作成する方に適していると思われます。

新たな事業環境に即応サポート助成金締め切り前日の焦りと調整のポイント

書類の確認作業や内容の最終チェック

チェックリストがあるので、提出文書の点検は大変簡単に点検がすみます。書くべき書類は、3つですが誓約書の2件は本人情報を書くだけですので誤字だけ点検すれば足ります。申請書は、記入すべきTabが多岐に分かれていますので、お好みによりプリントし各頁同士の整合関係を点検されるのも良いと思います。

発生したトラブル(例: 必要書類の不備や確認不足)とその解決方法

最も苦慮したのは、見積集計ページの記入でした

もし、1つの依頼先に30万円以上の発注をする事を予定すると、後日カタログの提出が求められます。また、1件100万円以上の金額になると、相見積もりとして2社分の見積書を提出する必要が出てきます。私は、事前にWeb製作の専門家と下打合せをしておきましたが、実際にやりたい事はデジタル技術とマーケティングを組み合わせた取り組みだったので定型的なパッケージ商品では無くカタログはありません。

競争見積もり
競争見積もり

となると、【専門家指導費】なのか【システム】なのかと迷い始めます。何れにしても、単価と数量をどの様に定義するかが最大の悩みどころでした。毎年、この助成金を同じパターンで受けている方は、1行??十万円で数量1で良いでしょう?しかし、後々面接で聴かれる事を考慮すると今少し丁寧に全体構想を整理した上で細分化し、概算見積を取り寄せておく必要性を感じました。この時点で、見積書の添付は不要ですが、単価の定義が大きく変わると後でなにかと問題が起きます。

出典:申請書様式‗【販売促進費】集計表‗カタログや相見積の要求

新たな事業環境に即応サポート助成金締め切り当日に直面した課題と対応策

電子申請システムの使い方や提出時の注意点

  • GビズIDを取得していない方は、予め準備される必要があります。今後も何かと必要となりますし、活用方法の発想を理解するのに少し時間がかかります。
  • 見積書は、余裕を持って取り寄せて置きましょう。当日、経費明細を変更すると見積書が間に合いません。但し、品名(役務)毎の単価と予想所要数量(時間)など予めが明確であれば問題ありません。
  • 締め切り当日は電話が繋がらない事が予想されますのでご留意下さい。
電話が込み合って来ます
電話が込み合って来ます

新たな事業環境に即応サポート助成金成功の鍵となった事業計画書の工夫

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審査員に響く事業計画の書き方

申請書の事業計画2の(3)に又少し思案を要する箇所が出てきます。「深堀」と「発展」です。特に、下の画像の一番下の【ある場合】という言葉は申請書式だけを見ていると理解できず誤植かと思いました。記入例をよく見ると、新たな展開を図る取り組みが【ある場合】という趣旨の様です。いずれにしても、ここで①垂直深化と水平展開、②既存事業との関連性証明、③新規性や進歩性、について立て続けに問われていますので矛盾なく最低限の連結性を記述するのに少し工夫が必要です。

実は、ここがこの申請の成否を決める最大の山場です。

出典:申請書様式‗事業計画(3)

プレゼン資料や補足説明の活用方法

申請書提出時に、プレゼン資料は必要ありません。また、補足資料は書類審査通過後に要求されます。この時点では、申請書の事業計画の中で審査判定に直接影響する部分があるのでご説明します。

審査員に喜んでいただけるチャンスは、事業計画書(4)の下記の記述部分にあります。特に、ご自身の事業はもとより地域ぐるみの活性化や業種を巻き込んだ定性的効果等に触れて頂けるとアピール効果が増大すると考えられます。要するに、「だからこの方の申請を採択した方が社会の為にもなるのだ」と思っていただけることを書きます。

出典:申請書様式‗事業計画(4)

新たな事業環境に即応サポート助成金申請で感じた「次回に向けた教訓」

今回実際に申請書を書き、感じた事と気づいた事をし共有します。

時間管理の改善点や効率化の方法

次回の募集は第10回で3月3日から開始の予定です。その時点では、おそらく確定申告を済ませてから応募した方が良いと思います。確定申告の方が優先度が高い上に、リアルタイムの市場動向が反映でき助成金の必要金額の精度も上がるからです。

出典: 新たな事業環境に即応した経営展開サポート事業 | 新たな事業環境に即応した経営展開サポート事業(kankyo-sokuo) | 東京都中小企業振興公社

専門家との連携が重要だった理由

多くの補助金申請で、事業計画書が要求されます。今回、計画書冒頭ではSWAT分析による事業の現状に関する自己分析から始まります。この時、通常は「自分の事は自分が一番よく知っている」という先入観に支配されています。

確かにそうかもしれません。しかし、そうでない部分を探し出すのが事業計画策定に成功するコツです。というのは、自分の基準で自分を評価していると、「自分の基準」が誤っていたり時代の要請に適合していない場合見過ごされてしまうからです。

貴女の経営方針や問題意識について、検討される際下記の診断サイトを利用されても良いと思います。中小企業庁の「みらデジ経営チェック」と云います。簡単な質問に答えるだけで、下記の様な診断結果が示されます。これ自体は、大まかな分類で聞かれているので精度は高くないもののグラフを見て初めて新たな観点で点検しなおす刺激が受けられます。

出典:経営チェック | みらデジ経営チェック

最後に:新たな事業環境に即応サポート助成金申請を成功させるための3つの秘訣

補助金や助成金で、自己負担部分のあるものは金額が大きくなる程リスクも高まります。自己負担部分もさることながら、事業の途上で予定通りの計画遂行が出来ない場合は請求書や支払い方法に不備が生じた場合キャンセルされる懸念もあるからです。そこで、3つの秘訣をご紹介します。

  • 初期計画
    最も大事なのは助成事業の初期計画です。初めに「補助金ありき」でスタートすると、余り良い結果が得られません。課題の抽出と解決、その具体策とコスト積算、そして資金調達の順でご検討頂くのがベターです。
  • 補助金の選定
    2025年の補助金は、国の主だったものだけでも7種類あります。さらに、各都道府県レベルまで含めると数千件にのぼります。一度、ご自身の事業計画が出来たらそれをモデルにしてどの補助金が一番よくフィットするかご検討下さい。
  • 相談相手
    身近に気軽に相談できる、「補助金のプロ」はいますか?なたに適した補助金を選び出すには、日頃からあなたの事業を熟知して置くのが一番です。顧問や、金融機関、商工会や商工会議所の、「相談相手」を今から確保しておきましょう。
相談相手はいいますか?
相談相手はいいますか?

今回の事例共有が、今後の「事業計画書」提出系の全ての補助金の応募の参考となり、ご自身と事業体にもっともマッチした支援を獲得されるご一助になれば幸いです。
ご不明な点や、ご質問がありましたらご遠慮なくお問い合わせください。

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