2025年第1次締め切り分のIT導入補助金の採択結果が発表されました。PCやiPadの購入が出来る数少ない補助金の一つですが、その採択率の推移が気になる所です。次回以降も募集はありますが、ここで採択の難易度を予め知って置けば、もっと有利な別の支援金制度に乗り換える検討も可能です。
「業務に使うパソコンを買い替えたい。」「新しいノートPCやタブレットを導入して、注文処理や在庫管理、会計業務を効率化したい。」そんなときに頼りになるのが「補助金」や「助成金」です。しかし、制度の種類が多く、どれが本当に自分の業種や規模に合っているのか分かりづらいと感じている方も多いはずです。この記事では、特にフリーランス・個人事業主・従業員10名以下の小規模事業者の方に向けて、経済産業省主管の「IT導入補助金」と厚生労働省主管の「業務改善助成金」という2つの代表的な制度を徹底比較します。そして、飲食業や通信業、運輸業、小売業、卸売業、生活関連サービス業、さらには建設業など、実際にPCを活用する場面が多い業種の方向けに、両制度の補助額、要件、採択率、活用しやすさの違いを、最新の採択データを交えて分かりやすく解説します。どちらの支援制度が“今のあなたに最も有利なのか”を見極めるためのヒントが得られる内容です。
パソコン購入に使える代表的な補助金とは?
IT導入補助金とは
IT導入補助金の主な特徴は以下の通りです。
- サービス等の生産性向上を目的にした国の代表的補助金です。
- 生産性向上が、補助目的です。具体的にはITツールを使い、会計機能・受発注機能・決済機能の何れかを補強する必要があります。但し、インボイス枠では「ITツールを使い、インボイス制度に対応する」ことが適用条件です。
- 登録ITベンダーとの契約が必要です。ご自身では、申請出来ません。
- インボイス枠に限りPC・タブレット・レジ等のハードウエア導入が可能です。

業務改善助成金とは
業務改善補助金の主な特徴は以下の通りです。
- 賃上げ計画を伴う設備投資支援
中小規模事業者の「最低賃金引上げ」とセットで業務改善設備の導入を支援します。 - 助成目的は、賃上げと生産性向上です。
POSレジ、クラウド会計、勤怠管理ソフトなどの導入が対象になります。物価高騰等要件該当で、 PC・スマホ・タブレット、及び自動車なども対象になるケースもあります。 - 地方労働局が窓口で、要件や申請難度が低めです


出典: 業務改善助成金のご案内
最新の採択傾向から見る“使いやすい”補助金は?
IT導入補助金の採択率と背景
採択率は第1回目比較では約38%ダウン
2025年度、第1次締切(6月18日採択発表)の採択率は、通常枠で50.7%・インボイス枠で57.5%でした。これを、2024年度第1次締切(4月24日採択発表)の採択率と比較して見ると、昨年は通常枠で75.4%・インボイス枠で95.2%でした。つまり、PC購入の可能なインボイス枠では95.2%ー57.5%=🔺37.7%となりIT導入補助金は前年比約38%のダウンとなって居ます。
このデータから解る通り、近年は①申請数が増え②採択率は下降傾向、という状況にあります。


もう一つの採択率低下の背景_審査基準の厳格化
今年の、この採択率38%低下の背景にはもう一つの事情があります。それは、不正受給防止や事務局の審査姿勢強化により、書類・内容チェックがより厳密になった点です。これに関連し、不正行為により登録取り消し処分になった22のIT業者も事務局ホームページに公開されています。今後の、採択の鍵は申請の主導権を握るITベンダー選定に際し信頼できる業者が見つかるかどうかに依存するとも言えます。

出典:IT導入補助金支援事業者登録取り消しリスト
その他の補助金第1回目の採択状況
ここで、例年第一回目募集の採択率が最も高くなる各種補助金の内、令和7年6月16日に採択発表のあった「省力化補助金・一般型」の結果を見てみましょう。下記の資料のうち、下の円グラフが重要です。
先ず採択率を見てみると、申請数1,809件に対し採択数1,240件であり、78.5%が採択されています。これは、昨年6月25日発表の第18次省力化枠の34.1%と比較して44.4%増加しています。これは、主に制度設計の改善に拠るものと考えられます。但し、今回の受給決定者の61.7%は製造業であり、11.3%は建設業です。そして、残りの27%を残りの業種で分け合う形になって居ます。以前の記事でもお伝えした通り、補助事業で期待できる効果の根拠証明の点で製造業が圧倒的に採択されやすい傾向にあります。


出典:上記HPの結果概要
この様に比較してみると、おなじ経済産業省系の補助金でも、IT導入補助金がインボイス枠で採択率57.5%だたったのに対し、省力化補助金・一般型の採択率は78.5%でした。その差は、21%でIT導入補助金よりも省力化補助金・一般型の方が採択されやすくなっている様に見えます。しかし、問題は貴方の業種が採択され易いか否かという事にも関連があるという点です。しかし残念ながら、IT導入補助金採択結果の資料にはこの様な「業種別統計」は見当たりません。
業務改善助成金の採択実態と傾向
厚生労働省では、過去の業務改善助成金の採択率を公表して居ませんでした。しかし、助成金の特色として補助金と異なり「申請書の出来栄えに拠る競争」の性格は限りなくゼロに近くなります。つまり、所定の申請要件に当てはまり予算さえ残っていれば審査が通りやすいと云えます。
また、各労働局の予算枠に余裕がある場合が多い上、書類のボリュームが少なく手続きも簡潔です。その結果、採択率の公表はないが、実は“申請すればほぼ通る”との声も聴かれます。但し、都道府県によって申請受付時期や対応が若干異なるため注意が必要です。
この助成金の採択事例として、建設業の他映像コンテンツ製作業・飲食品小売業・士業・クリーニング業等の採択実績が公開されています。

あなたの業種に合った補助金の選び方
前節で確認した通り、両支援制度で共通している点は「生産性向上」に貢献するハードウエアの導入といえるか否かです。その意味では、もう一つのメインの要件である「インボイス導入を伴う(IT導入補助金)」か「賃上げを達成する(業務改善補助金)」の何れが今置かれたあなたの事業によりマッチするか次第です。しかし、ここれらの支援制度を利用する為には以下の要件に該当している事が必要です。
IT導入補助金インボイス枠応募要件:
インボイス登録をしていない事業者や企業で、今後補助金申請ごにインボイス番号を取得する事を検討中の事業者に限る。
- 既にインボイス登録済みの事業者には申請資格がありません。
- また、申請目的は「ITツールを使い、インボイス制度に対応する」事に限定されます。
業務改善助成金応募要件:
1人以上の従業員が居る。従業員の中の、最も低い賃金と地域(都道府県)の最低賃金との差が50円以内である事。
- 一人親方、一人社長は申請出来ません。
- 従業員の最も賃金の低い方の水準が、地域(都道府県)の最低賃金よりもはるかに高い場合も申請出来ません。
- また、PC・スマホ・タブレット購入補助を希望する場合は、最低10名以上の従業員が必要です。
飲食業・生活サービス業は業務改善助成金向き
少額の設備更新が多い業種には、業務改善助成金が柔軟で使い勝手が良い傾向がります。PCと同時にレジ更新なども可能です。
・店舗業務の省力化にマッチしているので、注文端末やクラウドレジなどで効果が出ます。
・賃上げと相性の良い労働集約型業種に向いています。
通信業・運輸業・建設業はIT導入補助金も有力
これらの業種では、モバイル端末やクラウドサービスの活用がカギとなります。IT導入補助金で現場との情報共有強化が可能となり「ITツールを使い、インボイス制度に対応する」成果を上げやすくなります。
・現場と本部のデータ共有、クラウド勤怠管理などの活用が有効です。
・移動中も使える端末(ノートPC・iPad)の導入支援がしやすい業種です。
小売業・卸売業は両方の活用可能
これらの業種は、IT導入補助金と業務改善補助金のどちらも適して居ます。
・受発注のクラウド化=IT導入
・レジ更新・在庫管理=業務改善
・補助金の“二刀流”も現実的(時期をずらせば申請可能)
両制度の補助率・対象・申請の手間など徹底比較
ではつぎに、両制度の留意点について解説して行きます。
補助率と台数:
先ずIT導入補助金の補助率は、従業員10名以下の小規模企業と個人事業主を想定する場合、PC/タブレットの補助金上限は固定で10万円までです。従って、15万円のPCを購入する場合差額の5万円は自己負担になります。また、2台目以降に補助金は付きません。
一方、業務改善助成金で支援する、PC・スマホ・タブレットには購入台数制限はありません。しかし、助成事業計画書の中で生産性を高める為にPC・スマホ・タブレット等が必須の要素である事を台数と共に明記しその全体予算が、同時に下記の表の該当コースの上限額以内に収まって居る必要があります。例えば、2024年10月以降現在までの東京都の最低賃金は、1,163円です。もし仮に、都内の申請希望企業の従業員で賃金が1,190円だった場合で、あと30円の賃上げをする対象者が10名居たとします。その場合、助成上限は下記の表だけで当てはめる限りでは130万円となります。そして、1,190円の賃金を賃上げする際の助成率は3/4ですので、この場合助成金は、1,300,000X3/4=975,000円となります。もしこれを、全額PCその他のハードウエアのみで生産性を上げる事業計画書を作成していた場合、975,000円迄の範囲で調達することが可能と為します。

比較項目 | IT導入補助金 | 業務改善助成金 |
補助率 | ハードウエアは定額 (上限固定) | 3/4(最大4/5) (賃上げ率により変動) |
補助上限額 | PC・タブレット~10万円 レジ・券売機 ~20万円 (台数制限=いずれか定額迄) | 特例事業者に限りPC・スマホ・タブレット購入補助 (台数制限なし-事業予算の補助率以内の金額迄) |
申請者の負担 | ベンダーとの連携必須 | 10名以上の賃上げ時に限定 |
採択率 | 回によってばらつき大 年々競争激化 | 比較的通りやすい 地域によって安定感あり |
申請成功のための3つの判断ポイント
補助金の目的と自社の課題が一致しているか?
- 書類に「課題と解決手段」のロジックが必要
両支援制度に共通して言えることは、初めにPC需要ありきで申請計画を立案すると成功し難くなります。まずは、自社の現状を分析し強み・弱みを客観化すると共に、好機・脅威等の外部要因も見直します。そして、これらを複合的に乗り越える為の施策としての「生産性向上」計画を立てます。従って、そこで得られる答えは、「プロセス」の改善です・ - この「プロセス」の改善には、人海戦術やチラシ広告や展示会出典あるいは営業車の購入そしてITシステムの構築に拠る業務の効率化等があるでしょう。ここで要約出てくるのが、システムを動かすアプリケーションソフトウエアであり、それを搭載するPC・スマホ・タブレットとなります。
- 導入目的とツールの種類
そして、これらのハードウエアとソフトウエアのツールの種類が導入目的の「ITツールを使い、インボイス制度に対応する」事や「生産性向上」にどれだけ明確に連動するかが審査に通る決め手となります。
制度のルールや加点要素を理解しているか?
公募要領や交付要領を熟読し、加点項目は何かを確認します。例えば、IT導入補助金であれば以下の様な加点項目の規定があります。
(公募要領P22より引用)
① 加点項目について
加点対象となる取組み等は以下のとおり。
1) 地域未来投資促進法の地域経済牽引事業計画(IT導入補助金の申請受付開始日が当該計画の実
施期間内であるものに限る。)の承認を取得していること。
2) 交付申請時点で地域未来牽引企業に選定されており、地域未来牽引企業としての「目標」を経済産業
省に提出していること。
3) 導入するITツールとしてクラウド製品を選定していること。
4) 導入するITツールとして「サイバーセキュリティお助け隊サービス」を選定していること。
5) 導入するITツールとしてインボイス制度対応製品を選定していること。
6) 補助金申請額150万円未満の申請者であって、事業計画期間において、以下の要件を全て満たす3
年の事業計画を策定し、実行していること。
以下省略(公募要領P22より)
H3-5-3:申請サポート(社労士・認定支援機関)を活用するか?
書類の完成度とスピードを高めるには外部連携がカギ
実は、これらの支援金が次回は何時申請出来るかという点とそれまでに何をすべきかという項目を整合して置く事が申請に成功する必須条件です。先ず、スケジュールを見てみます。
IT導入補助金(インボイス対応類型)の3次締分は既に募集が始まって居り、締め切りは7月18日の予定です。

業務改善助成金の次回申請は、第2期で既に開始しており締め切りは10月の地域別最低賃金改訂日の前日までです。

事務処理や申請作業にかけられる時間
次に、賃上げ幅に対する人件費増額の比較をシミュレーションします。
さらに、現行の就業規則の記載内容が、2024年と2025年の労働基準法と労働関連法その他の規制改訂に準拠できているか点検します。
✅ 補助金活用でPC導入した成功事例紹介
補助金は、単に「お金がもらえる制度」ではありません。経営の課題を明確にし、それを乗り越えるための設備投資を後押ししてくれる「経営改善の起爆剤」として使われるべきものです。ここでは、IT導入補助金と業務改善助成金を活用して、PCやタブレット端末を導入した実際の事例を、業種別に紹介します。
飲食業|セルフオーダー×業務改善助成金
背景:人手不足で接客効率が課題に
導入内容:注文用タブレット+PC連携のPOSレジ

活用補助金:業務改善助成金
効果:ホールスタッフ1名分の業務削減に成功。賃上げ要件をクリアし、最大80%の補助率が適用された。
建設業|現場用スマホ×IT導入補助金
背景:現場からタイムカード打刻を行うためだけに本社に出社・貴社が常態化
導入内容:クラウド就業管理ソフト+ノートPC・タブレット端末の導入

活用補助金:IT導入補助金
効果:現場~会社間の移動が不要になり、残業が3分の1に削減された。
小売業|クラウド在庫管理×業務改善助成金
背景:在庫の把握と棚卸業務が属人化しミスが多発
導入内容:PC+クラウド在庫システム+バーコードリーダー

活用補助金:業務改善助成金(賃上げ計画あり)
効果:商品回転率が向上し、従業員の時給アップに繋がった。社会保険労務士の支援により、書類もスムーズに整備できた。
運輸業|安全で質の高い運送を勤怠状況の把握で先手を打つ!
背景:営業所毎の表計算ソフ労務管理で手間がかかる。「超過する前に把握」したい。
導入内容:業務用PC+クラウド勤怠管理システム

出典:安全で質の高い運送を勤怠状況の把握で先手を打つ!- 事例を探す(事例ナビ)|経済産業省 中小企業庁 ミラサポPlus
活用補助金:IT導入補助金
効果:クラウド勤怠管理システム。労働時間を管理し、上限に近付くとアラートで知らせる。
これらの事例から分かるように、「業務改善助成金」は賃上げと業務効率化が両立する業種に特に有効であり、「IT導入補助金」はITツールそのものを活用する体制が整っている企業に適していることが見えてきます。
まとめ|補助金でPCを賢く導入する最適な選択とは?
- 両制度とも活用価値があります。ただし、自社の状況と照らして合わせて選ぶことが最重要です。
- 採択率や補助率だけでなく、「使いやすさ」「導入時期」「対応機器」なども含め総合的に判断しましょう。
- IT導入補助金のPCやiPadは、会計機能・受発注機能・決済機能の何れかを補強する専用ツールです。従って、単純にPCが買えるという趣旨とは異なり大きな制約がある点に留意が必要です。主要プロセスがダウンするなどのリスクを回避できる範囲で、副次的作業に流用できるに過ぎません。更に、補助上限もPCの場合10万円です。
- 逆に、業務改善助成金では、購入数量も使い方もかなりフレキシブルです。しかし、90万円の補助金を得る為に、300万円の人件費の増加とならないか入念にシミュレーションする必要があります。この点、計算には時間が掛かるので社労士や認定支援機関に依頼するのも得策です。
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フリーランス・個人事業主・従業員10名未満の小規模事業者の方には「業務改善助成金」の応募資格がありませんでした。また、これからインボイス登録をする必要がある事業者で且つ、「ITツールを使い、インボイス制度に対応する」ニーズが無い限りはIT導入補助金も使えません。では、法人個人合わせ全国で3,580,000者_全事業者の47%程度(財務省令和5年9月発表)と推定される、免責等によるインボイス未登録事業者はどうすれば良いのでしょうか?
ご安心下さい、まだ選択はあります。次回は、その補助金について解説しましょう。PC調達に関する補助・助成金について相談したい方は、お気軽に無料面談カレンダーから申し込んでください。
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