いよいよ秋の観光シーズン到来です。観光産業の競争は、今や「モノを売る」から「体験を提供する」時代へと大きくシフトしています。特にインバウンド需要の回復が期待されるなか、旅行者が求めるのは「現地でしかできない体験」と「帰国後も続く思い出の価値」。この二つを同時に実現できるサービスが、デジタルアーカイブを組み合わせた体験型事業です。
陶芸や木工などの体験で制作した作品を3Dスキャンし、デジタルデータとして保存。顧客はオンライン上で閲覧・再注文ができるため、単なる一過性の体験に終わらず、新しい収益モデルへと発展します。ものづくり補助金を活用すれば、こうした「観光 × IT × ものづくり」の革新的サービスに挑戦するチャンスが広がります。
インバウンド観光の課題
観光産業のあり方は、ここ数年で大きく変わりつつあります。かつては「お土産品を購入する」「名所を巡る」といった消費が中心でしたが、いま旅行者が強く求めているのは「現地でしかできない体験」です。陶芸や木工、染色やガラス細工など、手仕事を通じてその土地の文化を感じられる体験型サービスは、インバウンド観光の回復を追い風に、ますます人気を集めています。

しかし、その一方で多くの事業者が抱える課題も明確になってきました。それは「体験の価値が一度きりで終わってしまう」という点です。観光客は作品を持ち帰ることはできても、追加で注文する仕組みがなく、事業者側もリピーター化や長期的な顧客関係の構築が難しいのが現状です。せっかくの貴重な顧客接点を活かしきれていない、という声をよく耳にします。
補助金の概要
ものづくり補助金とは
「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」(通称:ものづくり補助金)は、中小企業・小規模事業者が革新的な新製品・新サービスの開発や、生産プロセス改善のための設備投資を行う際に、その費用の一部を国が支援する制度です。
第21次公募では、事業の競争力強化や地域経済への波及効果が重視されており、観光・文化資源の活用に関心が高まっています。特に「体験型サービス」と「デジタル技術」を組み合わせた新規事業は、審査項目の「新サービス創出」や「付加価値額向上」に合致しやすいため、採択可能性が高い領域といえます。
公募スケジュール(第21次公募)
- 公募開始:2025年7月25日(金)
- 電子申請受付開始:2025年10月3日(金)17:00
- 申請締切:2025年10月24日(金)17:00(厳守)
申請はすべて電子申請システムで行われ、「GビズIDプライムアカウント」が必須です。取得に数週間かかるため、早めの準備が欠かせません。
補助対象事業と補助率
- 補助率:通常枠は1/2、小規模事業者等は2/3
- 補助上限額:500万円~1,250万円(枠によっては高額設定もあり)
- 補助対象経費:機械装置・システム構築費・外注加工費・技術導入費など
観光事業者がデジタルアーカイブを導入する場合、撮影機材やクラウド構築費、外注によるデータベース設計などが補助対象となります。

申請できる事業者の条件
- 中小企業基本法に基づく中小企業
- 業種ごとに資本金・従業員数の上限あり
- 個人事業主も対象
また、申請事業は「付加価値額を年率3%以上、3~5年で合計9%以上増加させる計画」であることが求められます。これは必須要件であり、採択後もフォローアップ調査で実績確認されます。


補助対象経費の例
補助の対象となる経費は、革新的な新製品や新サービスに必要となる各種デバイスや設備です。
- 高解像度カメラ・スキャナー等の撮影機材
- 3DスキャンやVR対応システム構築費
- クラウドサーバー費用・データベース構築費
- 多言語化アプリ開発費用
- UI・UX改善を目的としたデザイン外注費

申請方法と注意点
申請は、全て電子申請となるほか下記の点も留意が必要です。
- 申請は「電子申請システム(jGrants)」経由
- GビズIDプライム必須
- 認定支援機関(商工会・士業等)の確認書が必要
- 採択後は成果報告義務あり
- 不備があると審査対象外
特に「数値計画」の説得力が採択可否を大きく左右するため、投資効果や収益予測は定量的に記載することが重要です。

観光の変化(背景)
インバウンド需要の回復
2025年の大阪・関西万博を契機に、訪日外国人旅行者は増加傾向にあります。単なる「物見遊山」から、「地域文化や生活に触れる体験」へとニーズが変化しており、事業者にとっては新たなサービス開発の好機です。

デジタル技術の浸透
SNSやオンライン予約サイト(Online Travel Agency:OTA)の普及により、観光体験の発信・共有が加速。さらに、AR・VR技術の一般化により「現地に行かなくても体験できる観光」や「旅の思い出をデジタル商品化するサービス」が注目されています。
観光の価値観の多様化
これからのインバウンド観光は、モノ消費からコト消費へ向かいます。そこには、体験と記録を融合させたサービスの需要拡大が見込めます。この機会に、デジタルネイティブ世代の増加による新しい観光スタイルを確立しましょう。
事業者の課題
一方で、足元を見てみると幾つかの課題も有ります。
人手不足・高齢化
先ずは、地域観光の担い手不足が深刻化し、効率的なサービス提供が難しくなっています。
デジタル対応の遅れ
また、SNSやオンラインツールを十分に活用できず、潜在顧客を取りこぼす事業者も少なくありません。
言語の壁と情報不足
さらに、訪日外国人にとって、言語対応が不十分な観光施設は選択肢から外れやすく、機会損失につながります。

収益モデルの限界
そして、物販に依存した収益構造では成長が頭打ちとなり、体験やデジタルサービスへの転換が求められています。
解決策(デジタルアーカイブ)
そこで、これらの課題の解決策を考えてみます。
デジタル保存の強み
観光体験を写真・動画・3Dデータとしてアーカイブ化することで、文化資源の保存と新しい収益源の創出を両立できます。

新しい収益モデル
また、新たな収益モデルとしては以下の様な形態がこれから発展します。
- デジタルお土産(体験動画や3Dデータの販売)
- NFT(Non-Fungible Token)による限定デジタルコンテンツ提供
- 越境ECでのグローバル販売

多言語展開の可能性
さらに、訪日外国人への言語対応問題の解消についても、デジタルアーカイブは自動翻訳や多言語アプリと連携しやすく、外国人顧客に直接リーチ可能です。
教育・研究分野での活用
そして、観光資源を教育コンテンツとして提供することで、学校・研究機関との連携も期待できます。この教育や研究機関との連携が、新たなデジタルサービスへの転換を醸成して行きます。
補助金を活用する意義
初期投資の負担軽減
デジタルアーカイブ導入には高額な機材・システムが必要ですが、補助金を活用すれば費用の半分以上を削減できます。
事業の信頼性向上
採択実績は金融機関・自治体からの評価につながり、追加資金調達や提携の際に有利になります。
地域経済への波及効果
地域資源をデジタル化して発信することで、地域全体のブランド価値が高まります。

採択ポイント
観光需要・インバウンド回復に対応
国策的にも重点分野である「観光 × インバウンド」を押さえることで高評価を得やすくなります。
「体験型サービス+デジタル商品」という新しい価値提案
単なる観光サービスではなく、デジタル技術を組み合わせることで「新規性」を明確に打ち出す事ができます。

ものづくり補助金の評価項目である「新サービス創出」に合致
その結果、評価項目に直結した事業計画を提示することで、自ずから採択率を高めることが可能となります。
採択につなげる申請書の作り方
事業の独自性・差別化の示し方
「地域資源 × デジタル技術 × 体験型観光」という切り口で、他社にはない独自性を強調します。

投資効果を定量的に示す方法
投資効果を定量的に示すには、以下の様な幾つかのコツとステップがあります。
- 来訪者数の増加率(例:前年比+20%)
- デジタル商品の販売件数予測
- 客単価の上昇額

持続可能性と社会的意義の強調
また、持続可能性と社会的な意義に触れて置く事採択に有利に働く要因です。
- 文化資源の保存・継承
- 環境負荷低減(デジタル商品による紙資源削減)
- 地域人材の育成

まとめと次のステップ
今すぐ始められる準備
まずは、アカウント登録がお済みかどうか点検しましょう。GビズIDも暫くログインしていないと、画面の変化に戸惑います。また、機材の見積入手や事業計画の中の採算の目論見が重要です。
- GビズIDプライムの取得
- 必要機材・システムの見積り取得
- 事業アイデアの整理と数値計画の立案

採択を確実にするための支援活用
こう考えると、10月3日までは長いようで短い日程となって来ます。そこで、外部の専門家を活用して時間短縮を図るのも一つの有効なアプローチです。その際には、採択実績に着目しリーズナブルな報酬かどうかに留意しましょう。
- 認定支援機関や専門家と連携して計画書をブラッシュアップ
- 採択実績のあるコンサルタントを活用し、採点基準を押さえた申請を行う

採択後の展開
特に、補助金は採択よりも事業の実施の方が難易度が高くなります。この点、認定支援機関や専門家の最大の起用メリットは伴走支援も請けてくれるかどうかです。と云うのは、かなり厳格な経理処理をしエビデンスを残しながら予算を消費して行く傍ら、事業飛躍の構想を膨らませるには少しリソースが不足する懸念があるからです。この点も、契約前に報酬も含めて具体的に確認して置きましょう。
- 教育・研究分野へのコンテンツ提供
- 他地域観光事業者との連携によるパッケージ化
- 越境ECを通じた海外市場への進出

結論
ものづくり補助金を活用した「観光デジタルアーカイブ事業」は、観光需要の回復とデジタルシフトという2つの潮流を同時に捉える有力なビジネスモデルです。
補助金の支援を受けて設備投資を行うことで、事業リスクを最小化しつつ、新たな収益源を確立できます。今こそ、補助金を最大限に活用し、地域資源を次世代へとつなげる新しい観光事業をスタートさせる好機といえるでしょう。
このテーマに関連して、疑問や質問がある方はお気軽にご連絡下さい。