海外企業との連携で成果物を生み出す「海外共同開発枠」は、1人社長や小規模法人でも活用可能な有望枠です。しかし、事業計画書では“国際連携の必然性”や“革新性”を明確に示す必要があり、記載には独特のコツがあります。実は、ものづくり補助金の申請で「周囲からの支援」が困難な部分は、あなたが最も熟知している技術分野の最新動向です。そこに、どの程度の“革新性”や”進歩性”があるかについて、あなた以上に熟知したコンサルに巡り合えるのは稀だからです。従って、ここが事業計画書のコアの部分で採択の可否を分ける内容となります。本記事では、公募要領と参考様式に沿って、あなだけが知る技術内容をご自身で整理して頂き、採択率を高めるための事業計画書作成のポイントを事例を設定した【ケース解説】を交えて丁寧に解説します。
1分で見る「ものづくり補助金とは?」

この補助金の目的
まずは、この補助金の概要を簡単に確認しましょう。この支援制度は、革新的な新製品・新サービス開発や 海外需要開拓を行ために必要な設備投資補助を行う事で、中小企業者等の生産性向上を促進し、賃上げ・最低賃金引上げ等を実現することを目的とします。また、グローバル枠では以下の①~④の事業が支援されます。


補助上限と補助額
つぎに、応募の種類は大きく分けて国内事業と海外関連事業の二つの応募枠がありますが、グローバル枠は補助上限が一律3,000万円で小規模事業者の補助率は2/3です。

応募要件
また、法募条件である基本要件は4つありますが、一人社長の会社はこのうち①~③のみで、④は適用外です。

それに代えて、今回はグローバル枠追加要件の④「海外と共同で行う事業」では、「共同研究契約書」又は「業務提携契約書」の提出が必要となります。

「海外企業との共同開発型」が小規模法人・個人事業主に向いている訳
そして、このものづくり補助金でグローバル市場を意識した海外事業枠には更に4つの分類があります。その中でも「グローバル要件④海外企業との共同開発型」という名の申請枠は、海外法人や支社とタッグを組み、新たな製品・技術・サービスを創出することを主眼にしています。
一見すると「ハードルが高そう」と思われがちですが、実は小規模法人や1人社長・個人事業主にこそ活用しやすい枠組みです。その訳は、次のとおりです。
小規模事業者でもチャンスのある理由
- 海外企業との提携は“外部資源活用”
1人社長でも、現地法人や海外ベンチャーとの協業で不足する機能やノウハウを補完可能です。そして、これは従業員の有無とは直接的には無関係です。
- 輸出や海外投資のような大資本を要しない
製造拠点の設置や現地法人の設立が不要な点で、実行可能性が高くなります。特に、グローバル枠④の「海外と共同で行う事業」は、あなたの経歴や専門分野と海外人脈に依存します。
- 成果物創出が評価される
共同研究のエビデンス(例:共同研究契約書、業務提携契約書)をだけが求められるため目的がフレキシブルでで申請要件も単純です。
1人で全てを担うのではなく、「自社の独自技術 × 海外企業のリソース」で相互補完型の開発体制を構築することが成功の鍵です。
海外共同開発枠事業計画書の書き方完全解説
では、ここから申請書のコア部分となる、事業計画書の書き方について解説して行きます。第20次申請の受付が開始されてから、添付の様な「参考様式_事業計画書 記載項目」が公開されました。これは、もの作り補助金の電子申請をする際の原稿となる書式です。以下の書式の画面を使って、詳しく見て行きます。

【4.(2)事業内容】誰と何をどう作るかを明確に
まず、「申請者の概要等」につづくあなたの会社の基本情報を書きます。事業計画を検討する箇所は、「4.事業内容(1)事業枠」から始まります。最初に、(2)事業計画名(30字以内)の枠に、何を目的とした事業なのかを簡潔に記載します。「自社のどの技術を活かし、海外企業と連携して、どのような製品(技術・サービス)を開発し、どのような社会的・市場的価値を生み出すのか」を簡潔に示す事が望ましいと考えられます。ただし、ここは事業計画書が最後まで書けてからもう一度戻って来て「日本標準産業分類」のどれにが移動するかを含め再検討します。従って、ここではあまり言葉の端々まで気にせず、概要と骨子のキーワードを書き留めて置くだけでも結構です。

記載のポイント
次は、(3)事業計画の概要(100字以内)という枠に記述する内容を検討して行きます。しかし、最初からこの100文字の事業概要を過不足なく簡潔に記述できる人は居ません。まずは、その準備として貴方ご自身の、これまでの知見やキャリヤ取引経験などから、「この技術は有望だけれど、国内ではまだ情報が少ない」とか「技術移転してあの国に設備を作れば当るに違いない」と漠然と感じて来た事を順を追って分析して行きます。ただし、実際の分析作業は次節で行います。ここでは、そのお題をイメージする為以下の切り口で、複数の技術テーマについて思い起こし出来ればマトリックス表にメモして行きましょう。

- 成果物(製品・技術・サービス)を明確に特定する
数年後には、事業として収益を生み出す必要があります。その、収益の源泉は製品なのかサービスなのかイメージします。
抽象的な「新製品」ではなく、具体的に「~用途向け軽量カーボン樹脂部材」などとメモして置きます。
【ケース解説】
例えば、今回は「BIM」Building Information Modeling(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の用途開発をテーマとして以下検討して行きます。また、設定する組織の基本条件としては、社長のみの1人の株式会社、資本金は500万円、設立後2年経過。定款上の目的は、土木工事と建築工事の設計と施工、外国人労働者の受け入れと教育、を行う会社とします。また、得意分野はBIM/CIMを活用した管理と提案力です。
従って、期待する最終成果物は「土木工事と建築工事専用の業務効率改善アプリケーションソフトウエア」です。そして、この補助事業のゴールは、そのアプリケーションの研究開発です。

海外企業との役割分担を示す
つぎに、国内と海外のどちらが試作・評価・量産プロセスを担うのか、また技術供与や知財の扱いも簡潔にメモします。研究開発であれば、量産化の実施は範囲外となりますが計画だけは後日確定して置く必要があります。また、同時に国際特許や補助対象外ではありますが国内特許の事も顧慮する必要があります。
【ケース解説】
基本ソフトは既に確立されたものがあります。それを、設計管理や施工管理プロセスの各業種にマッチしたツールに深化させる為にテーラリングするのが今回の研究開発テーマです。典型的な役割分担としては、申請者であるあなたの会社は国内の各業種の現場の声やニーズを調査することであり、海外パートナーはそれを踏まえて基本ソフトをテーラリングするタスクが考えられます。

- 提携の背景と意義を記述
なぜその国・その企業と組むのか? 技術力、実績、販路、調達などの理由を明確にします。
地理的移動時間を考慮すると、アジアパシフィック地域が有利ですし、通貨格差を利用したコストダウンも見込めます。また、時差の点ではヨーロッパ諸国も比較的負担が減ります。あとは、ターゲットとする業種(例えば、大まかに土木と建築)のどこに強みを持つパートナーかにより、その技術力・実績・販路・調達方法などを査定リストを作成して複数の候補を比較します。
【ケース解説】
今回は、技能実習生が近年増えているベトナムをパートナー国にします。あくまでも参考ですが、日本とベトナムの物価の差は、ベトナムの物価が日本の1/2~1/3です。実際の計画書では、賃金格差などに触れて行きます。

以上で、この事業計画の「成果物・業務分担・提携の意義」まで整理が付きました。これは、次節の市場ニーズとの兼ね合いで再度掘り下げて行きます。
【4.(3)市場ニーズと市場規模】共同開発の“必要性”を証明する
製品の開発に必然性がなければ、どんなに優れた技術でも採択されません。審査員が納得する「社会的・産業的背景」や「市場ニーズ」を定量的に説明し「何故売れるのか」を明記する事が求められます。おそらく、この統計値をどれだけ的確に集めるかが採択の成否を分けるの分岐点になるでしょう。
【ケース解説】
今回の事例の場合、事業計画の概要欄では前節で検討し整理した事項を踏まえ、世界レベルと比較して日本はやや遅れていると言われる、BIMの普及が必要である点を指摘します。そして、国土交通省の支援事業では、実際の工事案件で導入する必要があり全ての中小企業者まで参画出来る機会は少ない等の実態も指摘すると良いでしょう。
ただしここの要約は、100文字しか書けません。従って、全体が整った後でタイトルと併せて再度遂行する事をお薦めします。

【4.(4)競合との比較優位性】日×海外の技術連携の強みを示す
この欄はグローバル枠の4つの内どれを選択するかチェックマークを入れるだけです。
【ケース解説】今回の事例では、アプリケーション開発なので「新役務(サービス)の開発」とします。

【事業計画書(5)具体的内容】審査を意識した構成と記載のコツ
以下、①~⑨の項目ごとに重要な検討ポイントをまとめます。
① 事業実施の背景
ここからは、参考様式(5)のこの事業計画の具体的内容を組み立てて行きます。最初は、①の今回事業実施の背景(1000字以内)です。ここで必要な、市場分析作業を行います。
分析項目は、外部環境分析・内部環境分析です。
外部環境分析では、上記の技術テーマの概要に対して、「国内市場のニーズがどの程度あるか」「海外市場でのニーズは見込めるか」「提携先の国の市場ではどうか」、「類似テーマで既に先行している例はあるか」「それは、何処の国の何か」「参入障壁は何か(法規制・文化その他)」などを見極めます。
その手法は、いくつかありますが今回の様な海外市場に関する外部環境分析を含む効果的な手法にはPESTEL分析が有ります。これは、P(Political)政治的要因・E(Economic)経済要因・S(Social)社会的要因・T(Technoligical)技術的要因・E(Environment)・L(Leagal)法律的環境の6要因を対象とします。

とりわけ、海外市場で留意すべき点は、相手国の輸入規制・事業免許・労働法・会社法(合弁規制)・税法などです。また、契約書締結時の誤訳なども大きな問題となるので丹念な交渉と確認がが必要です。
★中小企業診断士や、認定経営革新等支援機関や外部の補助金コンサルタントは、この分野の調査分析を得意としています。貴方の、作業時間を短縮する為にこの調査をアウトソースする事も一つの選択肢です。但し、最初に声を掛ける際に「PESTEL分析できますか?」と必ず確認して下さい。
【ケース解説】
BIMの普及状況や、国土交通省の支援策、実例、BIMの技術課題などを調べ「解決すべき課題」を割り出します。
例えば、ここでは「中小建設業者へのBIM普及率が低い」このままだと、日本の建設業のDXは「世界水準から取り残されつつある」という課題です。

- 内部環境分析
内部環境分析では、内部資源(人材、技術、財務)を網羅して状況を振り返り、更に自社の周辺の経済状況を踏まえ取るべき対策を割り出します。手法としては、一般的には「SWOT分析」が解り易くお薦めです。但し、今回のように海外市場で事業展開を計画する際は、これに加え4つの経営資源(ヒト、モノ、カネ、チエ)の内最大のボトルネックになる要因にいての検討が必須です。その、海外事業での最大のボトルネック要因とは何でしょうか?それは、「ヒト」です。すなわち、最初の計画立案までは良いのですが、補助金が採択され補助事業を開始して行くと片手間では遂行出来なくなって来ます。一方、無理やりご自身がこの業務に掛りきりになるとご本業が滞ります。このあたり、応募要領の2.5.2節の記述をみると「社内に海外事業の専門人財を有すること又は海外事業に関する専門家と連携する事」と書かれており、外部リソースの起用も視野に入れ補助対象となって居ます。

下方法は、記のSWOT分析のマトリックスに、自社の強み・弱みを書き出します。貴方の会社の強みは、設計管理でしょうか・施工管理でしょうか?まずは、分析シートの左と上のセルにそれぞれの要因を書き出して行きます。その上で、中央のの4つの象限に対応戦略を書き込んで行きます。
★中小企業診断士や、認定経営革新等支援機関や外部の補助金コンサルタントは、この分野の調査分析を得意としています。打診する際は、最初に声を掛ける際に「クロスSWOT析できますか?」と必ず確認して下さい。

- 解決すべき課題と本事業の関係性を論理的に記述
この様にして、自社の技術的な強みとこれから取り組みたい、テーマを結び付けて行きます。
具体例を示すと、以下の様になります。
【ケース解説】
クロスSWOT分析の結論は:
強み:自社の強みは、BIM/CIMを活用した設計と施工の提案管理能力
提携相手国の言語に精通したコミュニケーション能力
弱み:スタッフが居ない為、顧客へのトレーニング提供やモデリングのリソースが問題発生
機会:海外では通貨格差を活用し、トレーナーやエンジニアを集めやすい
脅威:時間と共にBIMも普及して行くので市場が飽和してしまうと自社の競争力が下がる
①積極戦略:強みを生かすために補助金を活用して海外の研究機関と技術提携を進める
②改善戦略:海外提携事業の専用スタッフは居ない為アウトソース先の専門家を探す
③差別化戦略:国内土木工事の景気は伸び悩んでいる為、BIMを手軽に導入できるトレーニング 体制を確立する
④撤退戦略:土木工事と建築工事のセグメントを細分化し利益率の悪い、孫請け工事から脱却し公共工事直接受注を目指す
となります。そこで、だから今➡海外パートナーと組んでシナジー効果を生みだしたい。という様な論理の流れを組み立てます。尚、ここで導き出した対応戦略①~④は後ほど再利用します。
記載のポイント
これらの論理の流れが出来たら、もう一つの作業があります。それは、先ほどのPESTEL分析の各項目に対して、客観的な統計データを最低1件づつ引用して出典と共に明示して置く事です。
この統計は、本来日本国内と相手国の両方のデータを示すべきですが、1000文字という字数制限もあります。先ずは、補助事業の目的成果物である「共同開発で獲得して研究成果の権利」をどの国でどうマネタイズするかを決めて立ち位置を明確にします。その、マネタイズの地域やマーケットが、相手国であればそこPESTEL分析が主体になるので統計データもそれに従います。
【ケース解説】
今回の事例では、日本国内に小さなラボを設置してアプリケーションのOQ(システムの理想環境上での稼働品質確認)・PQ(クライアントのプロダクション環境上での稼働品質確認)を担当します。又、ベトナム側では、将来受注したシステムのテーラリングを行う開発センターを設置しプログラミング部門として分業します。そして、ベトナムで製作したプログラム成果物を日本で販売します。
- ニーズの具体性を示す
想定される導入先の業種・職種・用途を明示し、ニーズが存在することをロジカルに説明します。上記の、設定条件に当てはめるとマーケットは日本ですので、国内のBIMニーズ統計を居ります。 - 市場データや第三者調査を引用する
一般的には、e-StatやJETRO、業界団体のデータを使い、対象市場の成長性や課題の裏付けを特定します。
尚、ベトナムの人件費推移も今後の事業運営を左右する要因なので推移傾向をデータで把握します。
- 既存技術の限界と機会領域を提示
「既存製品では対応できない」「海外技術をそのまま導入しただけでは不十分」といった要素を強調します。
以上の事を、事業実施の背景として1000字以内で記述します。そして、そういう事であればだれが考えてもこのマーケットに参入するのが得策であるという客観的状況を示します。

①-2 米国の追加関税の影響(該当者のみ)
これは、第20次募集で初めて追加されて内容です。トランプ関税の影響を受ける場合は、以下の事も記述します。

- 関税対象製品との関連性(サプライチェーン)を具体化。
- 売上・利益・受注への具体的影響を数値で示す。
- 技術転用による打開策として本事業の有効性を述べる

コロナ禍を引き金として発生した、ウッドショックやサプライチェーンの停滞発生により建設関連資材も高騰して来ました。そこに、関税問題の追い打ちが掛かるかどうかは慎重に見極めて置くべき課題です。該当の有無を点検して置きましょう。

② 会社全体の事業計画と本事業の位置づけ
前節までに①で、「このマーケットに参入するのが得策である」という客観的事実をアピールして来ました。ここではいよいよ、それでは実際何をどう進めたいのかという「事業計画」の内容を記述します。手順としては、先ほど検討した新事業と既存の事業を合わせ、会社全体としての事業計画を纏めます。

留意点は、以下の通りです。
- 経営理念や成長ビジョンと一貫性を持たせる。
- 本事業が中期計画上どの成長戦略に該当するか(新商品・新市場など)を明示する。
- KPI(Key Performance Index)としての数値目標や、財務計画との整合性を確保する。
- 現状維持の限界を定量的に示す。
- 市場ニーズと技術進展のズレを示すことで課題設定の必然性を強調する。
- 中長期的に事業構造をどう変革するかを提示する。
参考様式の解説に従い、経営理念、経営戦略、中期ビジョン、課題と解決法、を記述して行きます。そして、その流れと今回の事業の関連づけを明らかにします。
また、ここでは、先に実施したCross SWOT分析の、①~④の戦略についても詳しく述べて行きます。
【ケース解説】
例えば今回の事例では、骨子としては以下の通りです。
- 当社は、土木工事と建築工事分野の施工能力と技術開発を社是として設立した。
- 海外の若手エンジニアの積極的招聘と社内育成に力をいれ本邦の人で不足に対応している。
- 今後は、公共工事入札指名権を得るべく経営規模と内容を充実して行く途上にある。
- しかしながら、国内土木工事の動きに近年陰りが見える為、新分野の開拓が必要となった。
- そこで、今般補助事業により自社の得意とするBIM/CIMによる工事設計と管理能力の強化を図る。

これを、下記のCross SWOT分析の各項目と整合させながらまとめて行きます・
①積極戦略:強みを生かすために補助金を活用して海外の研究機関と技術提携を進める
②改善戦略:海外提携事業の専用スタッフは居ない為アウトソース先の専門家を探す
③差別化戦略:国内土木工事の景気は伸び悩んでいる為、BIMを手軽に導入できるトレーニング体制を確立する
④撤退戦略:土木工事と建築工事のセグメントを細分化し利益率の悪い、孫請け工事から脱却し公共工事直接受注を目指す

最後に、自社+海外企業の連携が、競合よりもどのように優れているかを強調します。

③ 事業実施期間のアクションと体制
次は、②で記述した「事業計画」を受け、参考様式③のアクションプランを纏めて行きます。ここでは、文章を纏める前の準備としてWBS(Work Breakdown Structure)として作業の最小単位を時間軸順に書き出します。その上で、それを工程表に(主要項目のみ)転記し前後の依存関係を確認します。作業Aが終わらないとBは開始出来ない、或いは作業XとYは並行して作業出来るが同時に完了しなければならない等の依存関係です。

また、ここで点検して置きたいその他の事項は以下のとおりです。
- 外部パートナーとの連携体制(契約、役割)を明確にして置く。
- 必要な資金・人材・知見が確保されているかを点検し課題リストの書き留めて置く。
その上で、Ganttチャートまたは月別工程表で「いつ・誰が・何をするか」を記載します。
スケジュールについては、参考様式の後ろの方にスケジュール表が用意されています。先に、これに記入すれば簡単に記述出来ます。

工程表で、作業の骨子と前後関係の整理が完了したら、続いて補助事業の中でどの様な事を行うかのアクションプランを記述します。
まず、事業対象のマーケットとセグメントを特定します。次に、先ほど整理して置いた、外部パートナーとの連携体制(契約、役割)や、誰がいつ・何をするのかにを含めて詳しく記述して行きます。また、KPI(Key Performance Index)の定義とその技量を備えた人材が担当する事が求められています。これらは、文章と専用のマトリックス表を併用すると紙面の節約になると同時にアピール効果が上がると考えられます。

【ケース解説】
どのタスクを、何時、誰が、どの様に実施するかは、下記のマトリックス表の要点を記述して行けば足ります。経費の記載は次節に回します。ここでは、PKIとその達成手段及びその実現可能性を裏付ける技量や人材についてに関して時間を掛けて丁寧に策定します。これらは、審査項目になっており面接でも問われるところです。
★全体計画及びアクションプランとも、中小企業診断士や、認定経営革新等支援機関や外部の補助金コンサルタントを起用すると精度が上がる箇所です。ただし、書類審査通過後に面接で内容に対して質問を受ける事になりますので、申請者は支援者に相談するのは結構ですがご自身の言葉で説明し未知の質問に受け答えが出来る様議論の中心人物として内容を理解して置く必要があります。ご自身で決め、外部支援者のレビューを受け、修正の検討会を行うのが自然に記憶に定着する手順です。


④ 事業に要する経費と設備・システム構築費の合理性
以上で、補助事業計画の全貌は定義出来ました。最後は、全体の経費配分と予算構築です。ここで留意したいのは、申請出来る経費と出来ない経費を公募要領から正確に把握する事及びコストを掛けても将来どの様なマネタイズに繋がるか或いはそれがペイするのかを念頭に置きながら構成して行く事です。
その他の記載上の参考となる指標は以下のとおりです。
- 各設備等が「どの工程・活動に直結しているか」を対応付け。
- 型番・性能・価格の比較検討も簡潔に記述。
- 補助対象外項目は除外し、明確に区別。

【ケース解説】
実際に、経費配分をしてみると全体が思わぬ高額になってしまう事があります。単価と工数が大きく誤って居ないのに、予算サイズが大幅にズレるなどの場合は、補助金の選択が誤っていてもっと大きな金額の補助金に切り替えるべき場合があります。しかし、逆に3,000万円も必要ないという場合は、補助事業計画の実施完了翌年やその先にどの程度の収益が約期待できるのか点検しましょう。最低限、自身の出費部分(全体予算の1/2,1/3プラス消費税額)はこの事業による追加収益で賄う必要があります。ここで、採算のシミュレーションをして、海外技術提携ではコスト回収の目途が立たない場合は撤退も検討すべきです。

⑤ 革新性・差別化・競争優位性
最後に審査員に対するアピールを1000文字以内で纏めます。キーワードは、「創意工夫」「差別化」「競争優位性」です。グローバル枠の海外企業との行同開発の申請枠ですと、以下の様な論点に触れるのが効果的です。

- 日本側と相手国側両社の技術・資源の融合による“強み”を示す(創意工夫)
「A社の微細加工技術 × 海外B社の生体評価設備」のように役割分担を明示する。 - 「新しい組み合わせ」や「市場初の試み」を明示する。(差別化)
- 再現性・独自性の高さをアピールする。(差別化)
容易に模倣されない工程や独占的な素材供給など、持続的競争力を盛り込む。(競争優位性) - 先行開発や競合先を把握して置く。
- 他社との比較は、主観ではなく具体的なデータで示す。
- 「なぜ今、自社がやるべきか」を訴求する。

⑥ 市場への効果と付加価値額の増加
つぎは、市場に対する効果や生産性向上に対する貢献度について述べます。これは、言い方を変えれば今回の補助事業期間が完了した次のステップの話です。多くの申請者の事業計画書は、何らかの設備投資やシステム構築により、業界に技術革新をもたらすと共に自社の収益も飛躍するという路線です。そこで、補助金採択額の清算が終わり支援が無くなった先は、どの様販路開拓を行いマネタイズをして行く予定なのかをここで示し事業計画自体の投資価値をアピールする所です。従って、前節の⑤重複する様に見えますが、⑤では補助計画期間中の内容であり、ここ⑥では補助計画中のアクションが全て完了した先の収益計画の話となります。そのため、留意点は以下の様な項目になります。
- 製品の価格・性能面の優位性を具体的に記載。
- 市場規模・ターゲット・販売モデルなど、数値を入れて実現可能性を補強。
- 付加価値額増加目標は「根拠ある数字」で記載。

⑦ 賃上げ計画
一人社長や、個人事業主の場合、賃上げ計画立案は多くの社員が居る企業に比べればシンプルです。会社等の組織であれば、ご自身以外に取締役や理事等の報酬を得る人が居るかも知れませんが人数は限られています。ポイントは、役員は会社の業績が悪化した際に報酬を下げて調整する事が想定されていますが、この賃上げ計画を提出した後はそれに拘束され報酬を下げられなくなるという点です。その他の論点は以下の通りです。
- 売上・粗利の増加と賃上げの関連を示す。
- 一人当たり給与支給額や社内最低賃金を明確化。
- 実行可能な範囲でのストレッチ目標が望ましい。

⑧ 地域資源・地域経済への貢献
地域資源や地域経済への貢献は、最も明確なアピールポイントがあります。それは、グローバル枠の海外企業との行同開発行為は、明らかに日本全体の「国際競争力」の底上げに貢献できる事です。その他にも、以下の項目の様なアピール点が日本と相手国の両国内であり得ます。

- 地元企業との取引や地域人材の雇用計画などを記載。
- 地域政策との整合性(例:産業集積や雇用創出)を意識。
- 原材料調達先や物流面でも地域性を訴求可能。

⑨ グローバル枠の追加事項(共同開発型)
最後に、グローバル枠独自の追加要件について記述が必要です。
1.海外展開実施体制と計画
アクションプランで概要を示していますが、実は共同開発のパートナーが見つかっていない或いは合意に至っていない段階で補助金の採択をすることは出来ません。その観点で、パートナーシップが一定レベルまで確かなものになって居る実態を示します。その裏付けの補足としては、以下のものが考えられます。

- 市場調査・現地規制調査の実施履歴・結果を添える。
- 開発スケジュール、海外企業の役割・体制を整理。

2.海外事業の専従者の証明
海外企業との共同開発を進めるだけの、知見やスキルを備えている人物が専従していないと補助金採択だけ受けて計画実施が頓挫するリスクが高まります。もし、社内にその様な人財が居るとしても以下の二つの点について説明しなければなりません。先ず①その方の経歴や専門性や、技術提携や共同開発案件成功の実績等の属人的な証左をしめす必要があります。

そして、②採択金額やプロジェクトの規模にもよりますが、3,000万円の補助金を受け4,500万円を投資するプロジェクトを1年実施するとなると、既存の別の職務を兼務したままでは遂行が困難である事が懸念されます。従って、組織図等のBefore /Afterで選任担当となった事を示すか、「新市場開拓」役員である等元々その職務が本業である事を示す必要があります。しかし、社長自身が兼務するという主張は無理がある為、外部の「海外企業との共同開発推進の専門家」に委託する方向で説明する方が理解され易いと考えられます。

その他の項目については、既に検討して来た事項の海外版となります。

更に、グローバル枠では各カテゴリーに応じ異なるエビデンス提出が要求されています。④の「海外企業と共同で行う事業」に応募する場合は、共同研究契約書」又は「業務提携契約書」のPDFファイルを提出する必要があります。

従って、最大の論点は海外提携先とのこれらの契約書が申請締め切り日の前日(第20次締切ですと7月24日)までに調印出来提出できるか否かが先決問題となります。
【まとめ】1人社長でも挑める“国際共同開発型”ものづくり補助金申請のコツ
如何だったでしょうか?会社の規模に関係なく個人事業主でも、3,000万円までの補助を受けられられる「もどづくり補助金」のグローバル枠の1つのカテゴリーについて解説して来ました。

筆者の周囲にも時折、長年イタリアでオペラ歌手を経験し帰国した方や、留学や海外研究機関に勤務され帰国された方がおられます。その様な方は、持ち合わせた才能ばかりでなく必ず人知れず努力を積み重ねた結果得た「何らかのノウハウ」があるはずです。実は、そのノウハウを振り返りご自身で棚卸しする事こそがこの申請枠の「申請のコツ」です。そのノウハウを活用して、新事業にチャレンジしたという方にこのグローバル枠の補助金は是非知って頂きたい制度です。

本稿で述べたように、「海外企業と共同で成果物を生む事業」は、政府が危惧している「国際競争力の低下」の歯止めに大きく貢献する為優遇されています。1人会社でも、自社の強みと海外企業のリソースを掛け合わせることで、大企業に負けない「ユニークで実行力ある事業計画」を構築できます。事業計画書の要所要所で、「なぜ今、自社が、海外パートナーと共に、この事業を行うべきか」を語れるよう、準備を進めてください。そして、是非日本の産業界の「国際競争力向上」に貢献しましょう。
ものづくり補助金グローバル枠の海外企業と共同開発型で、何かお困りの点や疑問質問が有りましたらお気軽に無料相談をご利用ください。
