2025年10月16日から入管法の施行細則省令が改正されました。その結果、新基準3,000万円の資本金を3年以内に調達できない場合「経営・管理」ビザの在留資格更新は困難になります。現在、様々な対応策をご案内していますが、それでも最終的に帰国せざるを得ない場合は事業の売却も早めに検討する必要が出てきます。
しかし、そうは云っても事業の買い手と売り手をマッチングするチャンネルや経費の事が良くわからず不安がつのりがちです。そんな経営者を支える制度が、**事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用枠)**です。
国が専門家への支援費用を最大600万円(上乗せ最大950万円)まで補助する制度で、中小企業の「承継・M&Aの第一歩」を後押しします。

制度の目的と全体像
この補助金は、事業承継、事業再編及び事業統合を促進し、生産性向上による我が国経済の活性化を図ることを目的としています。言い換えれば、中小企業の経営資源を次世代へ円滑に引き継ぎ、廃業を防ぎ、雇用と地域経済を守ることを目指したものです。その限りにおいては、日本国内の事業や企業である以上、この補助金の申請要件を満たす事ができます。
令和6年度(第13次公募)では、「専門家活用枠」として次の2類型が設けられています。
- Ⅰ型:買い手支援類型(事業を引き継ぐ側を支援)
事業再編・事業統合に伴い株式・経営資源を譲り受ける予定の中小企業等を支援する類型です。 - Ⅱ型:売り手支援類型(事業を譲渡する側を支援)
事業再編・事業統合に伴い株式・経営資源を譲り渡す予定の中小企業等を支援する類型です。
どちらも、M&Aや事業承継の過程で専門家を活用する際の費用が補助対象です。それは、これらの費用については、別の枠が用意されて居るからです。

専門家活用枠の補助内容(第13次公募)
補助対象者に交付する補助額は補助対象経費の3分の2以内です。
| 類型 | 補助率 | 補助上限額 | 上乗せ補助 | 備考 |
| 買い手支援類型(Ⅰ型) | 補助対象経費の2/3以内 | 600万円以内 | DD:+200万円廃業費:+150万円 | 承継未成立時は上限300万円 |
| 売り手支援類型(Ⅱ型) | 1/2または2/3以内(要件①②により変動) | 600万円以内 | 廃業費:+150万円 | ― |

※ 補助金の交付は補助対象事業完了後の精算払い(実費弁済)

補助事業期間
この期間は、補助金採択通知を受けてからその補助金を引き当てる目的で行う活動の期間を指ています。従って、余り長い期間ではありません。
- 補助対象期間は、交付決定日から2026年11月末まで(予定)。
- 契約・発注・支払いは必ず交付決定後に行う必要があります。
- 交付決定前の経費は補助対象外。
- 事業の進行状況に応じて「中間報告」や「実績報告書」の提出が義務付けられています。
📘 注意点:補助金は後払い方式のため、当初は自己資金で立て替える必要があります。
類型ごとの補助対象経費
Ⅰ型:買い手支援類型
M&Aによって他社の経営資源を引き継ぐ中小企業が対象です。
| 経費区分 | 内容 | 備考 |
| 専門家委託費 | M&A仲介、FA、弁護士・会計士・税理士報酬 | 認定支援機関の関与が望ましい |
| デューデリジェンス費 | 財務・法務・労務などの調査 | 上乗せ200万円以内 |
| 廃業関連費 | 売り手企業の廃業に関する登記・原状回復費用 | 上乗せ150万円以内 |
| PMI・契約支援費 | 経営統合後の組織・契約管理支援 | 補助率2/3以内 |

Ⅱ型:売り手支援類型
自社を譲渡・廃業する中小企業が対象です。
| 経費区分 | 内容 | 備考 |
| 専門家報酬 | 売却戦略・マッチング・譲渡契約書作成支援 | 補助率1/2または2/3以内 |
| 廃業費用 | 登記抹消・許可返納・設備撤去 | 上乗せ150万円以内 |
| その他支援 | 承継スキーム設計、税務・法務支援 | 600万円以内 |
📘 補足:
同一専門家が買い手・売り手両方に関与する場合は、利益相反防止策の記載が必須です。
申請スケジュール
申請受付期間は、2025年10月31日(金)~2025年11月28日(金)です。
| 項目 | 内容 |
| 公募開始 | 2025年10月31日(金) |
| 申請締切 | 2025年11月28日(金)17:00必着 |
| 採択結果公表 | 審査後に事務局ウェブサイトで発表 |
| 交付決定 | 採択通知後、契約・発注が可能に |

申請に必要な書類
申請費必要な書類は、全てjGrantsというシステムから申し込みます。最も重要なものは、補助金申請書(jGrants上の申請フォーム)です。そのたの添付文書は、以下のとおりです。これらの必要書類は、原則PDF形式でシステムにアップロードして提出します。
| 書類名 | 内容 |
| 事業計画概要書 | 承継の背景・目的・計画を簡潔にまとめたもの |
| 決算書類 | 直近3期分の貸借対照表・損益計算書 |
| 登記事項証明書 | 履歴事項全部証明書(発行3か月以内) |
| 住民票または法人証明書 | 代表者確認用 |
| 契約書・見積書写し | 専門家委託契約内容の証明 |
| 反社会的勢力排除誓約書 | 暴力団関係排除の誓約書 |
| 申請チェックリスト | 書類確認用(Jグランツ内入力項目) |
📘 注意:すべて電子申請の場合はPDF形式で添付。代表印の押印もスキャン可です。

計画書の書き方
第13次公募では、様式は公表されて居ませんが計画書を纏める際は以下の点がポイントとなります。
構成と書き方ポイント
- 目的と背景
自社の現状と承継の課題を明確にする。 - 専門家活用の内容
どの領域(財務・法務・M&A仲介など)で支援を受けるかを記述。 - 成果の見込み
承継後の経営改善・雇用維持効果を数値で示す。 - スケジュール
契約から実施・報告までの流れを時系列で整理。
📘 ポイント:
「承継後の姿」を具体的に描くと採択率が上がります。
例:“事業引継ぎ後3年以内に売上10%増・雇用維持率95%を達成予定”
審査方法と評価基準
審査は「形式審査」と「専門家審査」の二段階評価で行われます。
| 審査項目 | 着眼点 |
| ① 目的の妥当性 | 承継・M&Aの目的・背景が明確か |
| ② 専門家活用の有効性 | 活用する支援内容が課題解決に直結しているか |
| ③ 実現可能性 | 計画・体制・スケジュール・資金計画が現実的か |
| ④ 波及効果 | 地域経済・雇用維持にどのように寄与するか |
| ⑤ 経費の妥当性 | 支出計画・見積内容が合理的であるか |
📘 支援機関の戦略視点
採択率を高める鍵は、「目的の妥当性」と「波及効果」を明確化すること。特に「地域雇用維持」や「技術承継」を数字で示すと評価が上がります。

支援機関としての実務アドバイス
1. 早期段階からの伴走支援
補助金の目的は「スムーズな承継実現」です。
単なる書類作成ではなく、承継スキーム設計や専門家選定段階から関与することで、補助対象経費の根拠を明確にできます。
2. 専門家契約の整理
報酬体系や作業範囲が不明確なまま申請すると、「経費の妥当性」で減額されます。
支援機関は、契約書の文言調整や成果物定義をサポートしましょう。
3. 実績報告の準備
事業完了後は「実績報告書」の提出が必要です。
証憑書類(請求書・支払証明・成果物)を随時整理しておくことが採択後の時短につながります。
4. 他補助金との重複注意
特にM&A支援やIT導入支援など、他制度との経費重複があると減額・取消のリスクがあります。
早い段階で補助事業区分を整理しておくことが重要です。
よくある失敗例と対策
うっかりやってしまうミスは、請求時になってから支給取消のリスクを伴います。十分注意しましょう。
| 典型的な失敗 | 対策ポイント |
| 契約・支出が交付決定前 | 着手前に「交付決定通知」を確認 |
| 書類の形式不備 | Jグランツのファイル容量・形式要件に注意 |
| 成果物の不十分な保存 | 提出前に支援機関が証拠書類を点検 |
| 専門家費用が一式見積 | 内訳明細・時間単価・担当範囲を明示 |
| 補助対象外経費を含む | 対象経費リストを要領p.18で確認 |

業種別の活用イメージ
代表的な、5つの業種でこの「専門家活用枠」の補助金が有効となるポイントをお示しすると以下の様になります。
建設業
建設業許可や経審データの承継が発生。行政書士・税理士との連携が効果的です。
- 技術者や建設業許可の承継支援
- 経審データ・元請契約継続のコンサル
- 専門家:建設業法に精通した行政書士・中小企業診断士

卸売業
取引先契約や物流体制の再設計支援が重要。M&A仲介+会計士連携が鍵となります。
- 仕入先契約再構築、物流体制統合
- 在庫管理システム統合支援
- 専門家:流通コンサル・会計士
観光業
地域ブランド・旅客業許可の引継ぎに行政対応が必要。観光コンサルや弁護士支援を活用します。
- ブランド・商標権承継、観光施設運営許可の調整
- 行政連携・観光協会調整支援
- 専門家:弁護士・地域観光アドバイザー

宿泊業
旅館業法許可・雇用契約・予約サイト統合支援が課題。ITコンサルと社労士の併用が有効。
- 旅館業法許可承継支援、雇用契約引継ぎ
- 顧客データベース・予約システム統合
- 専門家:社労士・ITコンサル

小売業
店舗・システム・会員データの統合が中心。マーケティング専門家の参画で効果的に。
- 店舗資産譲渡、POSシステム統合
- 商圏維持と販売戦略再構築
- 専門家:販売戦略コンサル・税理士
まとめ ― 「専門家を頼れる経営」が次代をつくる
如何だったでしょう?売り手の場合、600万円の事業計画でその内の400万円を支援して貰い、もし廃業となる場合は更に150万円の加算が受けられる訳です。
事業承継やM&Aは、一度きりの経営判断です。だからこそ、専門家の力を借りて確実に進めることが重要です。この補助金は、単なる資金援助ではなく、**経営者の想いを次の世代へつなぐための“仕組み”**です。
グローバルな視点で未来を見据え、今こそあなたの新たな一歩を踏み出しましょう。
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