「執行役員は経営管理責任者になれる」のか?


建設業許可の新規申請では、経営業務の管理責任者(以下「経管」)の要件を満たす者を確保することが重要です。
その候補者として、現在の取締役だけでなく、過去に建設会社で「執行役員」を務めていた人を検討するケースがあります。
では、「執行役員として6年以上の経験があれば、経管になれる」のでしょうか。
結論からいうと、「執行役員」という肩書だけで判断することはできません。
東京都の「建設業許可(申請・変更)の手引」には、一定の要件を満たす執行役員等は経管になる事を認めると書かれています。

しかし、この「一定の要件」の解釈が困難です。具体的には、取締役会による権限委譲や、実際の業務執行の内容を確認するための資料が求められます。(東京都都市整備局「建設業許可申請変更の手引」)。
今回、ある建設会社の新規許可申請に際して、東京都都市整備局市街地建築部建設業課へ事前相談に行きました。
しかも、この相談は1回では終わりませんでした。
本稿では、令和8年6月に行った1回目の相談をもとに、「執行役員の経験を経管の要件としてどのように証明するのか」を整理します。

建設業課事前相談に行った理由

事前窓口相談

今回の相談では、申請企業の現取締役が前職で「執行役員」だった場合、経管の要件を満たせるのかを確認する事になりました。
東京都では、建設業許可の申請に関して、申請者の経験や確認資料が複雑になる場合には、事前に窓口へ相談することができます。
まずは、東京都建設業課のフロアに詰めている行政書士会の相談窓口へ電話で相談しました。
ところが、今回の案件については、「東京都の審査窓口を直接お訪ねください」
との案内でした。
そこで、審査担当部署へ相談予約のメールを送りました。その後、東京都の担当職員から電話をいただき、当日直接相談することになりました。
当日は窓口が比較的空いており、ほどなく相談することができました。

今回、面談で確認したこと

「執行役」と「執行役員」

今回確認したのは、東京都の「建設業許可(申請・変更)の手引」(以下手引書と略します)(令和7年度)の59ページ「イ(2)」の常勤役員等(経管)のケースです。
東京都の手引では、法人の「常勤役員等」について、役員のうち常勤である者などが対象となります(手引書「イ(1)」参照)。
その一方で、「役員」についての説明には、以下のように書かれています。
業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者(手引書「イ(2)」参照)
ここで注意したいのが、「執行役」と「執行役員」は全くの別物であるということです。

【重要】「執行役」と「執行役員」の大きな違い

会社経営に不慣れな方や一般の読者にとって非常に混同しやすいポイントですので、分かりやすく以下の表にまとめました。

項目執行役執行役員
法律上の位置づけ**会社法で定められた「正式な役員」**(指名委員会等設置会社に置かれる機関)**会社が独自に設けた「社内の職位」**(部長・本部長などと同じ従業員扱い)
商業登記簿への掲載登記される(法務局で誰でも確認可能)登記されない
原則的な経管要件そのまま経管(経営業務の管理責任者)の要件として認められる原則として「役員」とは認められない(別途厳しい証明が必要)

国土交通省の建設業許可事務に関する資料でも、執行役員は原則として「役員」には含まれないとされています。ただし、一定の要件を満たす「これらに準ずる者」に該当する場合は別です(国土交通省北陸地方整備局「建設業者のための建設業法」P-25参照)。

「役員」とは?

国土交通省の建設業許可事務に関する資料でも、執行役員は原則として「役員」には含まれないとされています。ただし、一定の要件を満たす「これらに準ずる者」に該当する場合は別です(国土交通省北陸地方整備局「建設業者のための建設業法」P-25参照)。
つまり、
「会社で執行役員と呼ばれていた」➡ 「だから会社法上の役員だった」➡↓ 「従って経管になれる」
という単純な関係ではありません。

建設業では、一般的に企業の人事組織のなかで「執行役員」という職務を設定していることが多く見受けられます。手引書59頁記載の注釈には以下のように書かれています。

『※ 「常勤役員等(経管)」とは、法人である場合においてはその役員のうち常勤であるもの、(中略)をいい、「役員」とは、業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいいます。』

このため、これを読んだ経営者は「執行役員は役員なのだから、経管責任者になれるはずだ!」という先入観を持ってしまいがちです。しかしここでいう「執行役」と「執行役員」とは全く異なるものなので留意が必要です。特に「執行役員」は登記簿に記載がなく、法律上の役員ではありません。

回答は「Yes」でも「No」でもない


今回、相談窓口では


「現在の取締役が、前職で執行役員を務めた経験がある。この経験を経管の要件として認めてもらえるか」
という質問を要求される証明書類を示しながらお提示しました。
これに対する東京都の回答は、単純な「Yes」でも「No」でもありませんでした。

窓口ご担当者からは、
「ご案内した資料を探していただき、何か見つかったらまたおいでください」
という趣旨の説明を受けました。
つまり、肩書や経験年数だけを聞いて、その場で可否を断定するのではありませんでした。

その人が実際にどのような立場にあり、どのような権限を与えられ、どのような業務を執行していたのかを確認できる具体的な資料を探す必要があるということです。
今回は、当時の組織図や人事関係資料、業務内容を確認できる資料も準備していました。
さらに、経管候補者ご本人より、執行役員時代にどのような業務を担当し、どのような社内決裁を経て業務を進めていたのかについても説明しました。

しかし、それでもその場で認定できるという結論には至りませんでした。
ここで、今回の相談から重要なポイントが見えてきました。

経管候補者については、「どんな肩書だったか」だけではなく、「どのような権限を持って、何をしていたのか」を資料によって具体的に証明できることが重要なのです。

執行役員は経管になれないのか?


認定要件

ここは誤解しないようにする必要があります。それは、絶対に「執行役員は経管になれない」ということではありません。

東京都の手引書59頁下の※印の注釈では、イ(2)の常勤役員等の該当要件について、
・取締役会設置会社であること
・建設業の経営業務の執行について権限委譲を受けていること

などを資料によって確認する仕組みになっています(東京都都市整備局「建設業許可申請変更の手引」)。したがって、ポイントは、
「執行役員かどうか」ではなく、「経営業務を執行する権限をどのように与えられ、その権限に基づいてどのような経営業務を行っていたか」
という点にあります。

この部分は、東京都の手引書では簡潔に書かれていますが、同様の記述が国交省のガイドラインにはより明確に書かれています。

まず、大前提の原則として、「執行役員」は会社法上の役員ではないため、そのままでは経営業務の管理責任者(常勤役員等)の要件を満たすことはできません。

しかし、執行役員でも以下の「3つの条件」をすべて満たす場合は、例外的に「経営業務の管理責任者に準ずる地位の経験」として認められます。

【自己診断】執行役員が経管として認められるための3要件

1.「取締役等に次ぐ職制上の地位」(取締役の直下)にいたこと(組織図等で証明)
2.「取締役会設置会社」において、取締役会の決議により特定の事業部門に関して業務執行権限の委譲を受ける者として選任された事(取締役会議事録等で証明)
3.取締役会によって定められた業務執行方針に従って、代表取締役の指揮及び命令のもとに、具体的な業務執行に専念した経験が「6年以上」(取締役経験があれば短縮)ある事

これらを満たす場合、経営業務の管理責任者に準ずる地位の経験として認めるという仕組みです。

イ(1)とイ(2)では、何が違うのか

証明資料の違い

今回の相談で特に印象に残ったのが、経験を証明するために必要となる資料の違いです。
東京都の手引では、イ(1)の常勤役員等については、役員としての経験期間を登記事項証明書などによって確認する方法が示されています。
例えば、役員としての経験については、登記事項証明書によって5年以上の経験期間を確認します。
また、令第3条の使用人(支店長や営業所長など)としての経験については、就任・退任時の建設業許可申請書や変更届出書の写しによって確認します。(東京都都市整備局「建設業許可申請変更の手引」)。
これに対して、今回問題になった登記簿に載らない役員に準ずる地位である**「イ(2)」**のケースでは、東京都の手引に次のような確認資料が例示されています。

「執行役員」の肩書では要件を満たせない理由

確認資料確認する内容
登記事項証明書会社が取締役会設置会社であること等
組織図本人の職制上の位置・所属部門
取締役会議事録業務執行権限の委譲
業務分掌規程担当部門・業務内容
人事発令書当該職位・就任期間
東京都の手引(東京都都市整備局「建設業許可申請変更の手引」)では、イ(2)について、これらの資料等を用いて、執行役員等の地位、建設業に関する業務執行権限、経験期間等を具体的に確認する構造になっています。
ここに、両者の大きな違い(証明難易度の差)があります。


法的根拠を欠いた職位

執行役員は、企業が任意に設定している職位です。
そのため、
「執行役員という肩書があった」
という事実だけでは、その経管候補者が建設業の経営業務をどの範囲まで管理していたのかは分かりません。

例えば、同じ「執行役員」という肩書でも、
・営業部門を担当していたのか
・建設事業部門を担当していたのか
・どこまでの決裁権限を持っていたのか
・取締役会から具体的な権限委譲を受けていたのか
・取締役等との指揮命令関係がどうなっていたのか
によって、実態は異なります。

よって、東京都の手引が組織図、取締役会議事録、業務分掌規程、人事発令書などを要求する事意義があります。(東京都都市整備局「建設業許可申請変更の手引」)。

今回、提示資料の問題点


今回の相談では、次のような資料を準備しました。


・登記事項全部証明書
・組織図
・人事発令書
・当時の業務内容を説明する資料
・業務執行に関する決裁資料等

しかし、東京都の手引に示されている資料を、経験期間全体について完全に揃えることはできませんでした。

特に問題となったのが、次の3点です。
1.取締役会議事録
2.業務分掌規程
3.組織変更に対応した組織図

組織変更が複数回行われている場合には、その期間を通じて本人の地位や担当業務を確認できる資料が必要になります。

今回も、組織図についてはある時点のものしか用意できず、過去の組織変更をすべて追える状態ではありませんでした。

また、取締役会議事録や業務分掌規程は、そもそも当時存在したか否かも含めて確認する必要がありました。

このため、今回の相談では、「執行役員」のキャリアを説明しただけでは、結論を出して貰えませんでした。その「業務執行権限」の詳細を文書を以って説明しない限り、肯定も否定も出来ないからです。

申請時の注意点

ここがポイント


規制緩和と規制強化

以上の一連の相談内容を振り返ると、ある傾向が見えてきます。それは、「規制の強化」と「審査基準の客観化」です。無論、後日紹介するテレワーク運用等の規制緩和もあります。

この規制強化の根底には、常勤実体のない人物に名義を借りて許可を受ける「名板貸し」(名義貸し)の禁止があります。

もし、仮に「執行役」や「執行役員」といった肩書を証明するだけで許可を与えてしまうとどうでしょう?例えば、取締役会設置会社でない「有限会社」等の「執行役員」も混在してくる懸念が生じます。

勤務の実態

さらに、書類がすべて揃ったとしても、次のハードルとして「常勤性の確認」が待っています。 これは主に、遠距離通勤者の場合です。

通勤定期券の購入履歴や、高速道路の利用明細など、実際に毎日その会社に勤務しているかどうかが厳しくチェックされます。これらは、現役経営者として毎日自社に出社している方であれば普通にクリアできる要件です。

盲点

しかし、ここに実務上の大きな「盲点」が存在します。
「取締役」の常勤性は、「適切な標準報酬等を得て、社会保険(健康保険・厚生年金)に加入」した事実で評価します。

ところが、東京都建設業課は、直接取締役の個々の報酬額や毎日の勤務実態を審査・監視はしません。(※通報等のクレーム事案が無い限り)。
新規申請の際も、社会保険の公的な加入証明をそのまま信用します。

だから、許可さえ下りてしまえば、実際の出勤日数は自社管理となります。ここに、名義貸しの伏線となる大きな盲点(抜け道)が存在しています。しかし、許可主体としてもある対策をしています。

こうした制度の隙間(盲点)がある反面、登記簿上の「取締役」以外の者の扱いを厳重にしています。その結果、執行役員には社内証明資料(組織図、議事録等)を求めているのです。

そう考えると、一見理不尽に思える厳しい文書要求も必要性に納得が行きます。

次回は、さらに進んで、申請書類の証明者や提出文書の詳細に関する指導内容を共有します。
お楽しみに。

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